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大阪地方裁判所 昭和39年(行ウ)67号 判決 1966年4月18日

原告 柴田勝正 外一名

被告 枚方市長

主文

原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、申立

(一)  原告ら

被告が、原告らの昭和三九年分固定資産税および都市計画税につき、同年六月一〇日付納税通知書の交付によつて原告らに対してなした各納税の告知処分は、いずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決。

(二)  被告

主文同旨の判決。

第二、主張

(一)、(請求原因)

一、原告らはいずれも枚方市の住民であるところ、被告は、昭和三九年六月一〇日付で、原告柴田の同年度分固定資産税を金二〇、五〇〇円、都市計画税を金二、九二〇円、原告伊藤の同年度分固定資産税を金八、一三〇円、都市計画税を金一、一六〇円と記載した各納税通知書を右各原告に交付して納税告知をなした。

二、しかしながら、右納税告知処分は次の理由によりいずれも違法である。

すなわち、地方税法によると、市町村長が行う固定資産の価格の決定については、これを補助するために市町村に固定資産評価員が設置され、同評価員は所定の手続に従つて土地家屋の評価をなした上、評価調書を作成してこれを市町村長に提出すべきものとされるとともに(地方税法………以下単に法という四〇四条、四〇九条)、市町村長は、右評価調書を受理した場合においては、これに基づいて固定資産の価格等を毎年二月末日(ただし、昭和三九年法律二号により、昭和三九年については三月三一日)までに決定し(法四一〇条)、直ちにこれを固定資産課税台帳に登録して毎年三月一日から同月二〇日(ただし、昭和三九年法律二号により、昭和三九年については四月一日から同月二〇日)までの間、その台帳を関係者の縦覧に供しなければならないものと定められている(法四一五条)。しかるに被告は、昭和三九年四月一日から同月二〇日までの間の右縦覧期間中、原告らの固定資産の価格を登録した固定資産課税台帳を関係者たる原告らの縦覧に供しなかつたものであつて、このことは、右固定資産の価格が法律に定められた同年三月三一日までに決定されていなかつたことを意味するものといわなければならず、したがつて、前記納税告知処分はその基礎となるべき固定資産の価格を決定することなくしてなされたもので違法な処分というべきである。

三、そこで原告らは、同年七月七日右処分について被告に異議の申立をなしたが、同年八月五日これを棄却する旨の決定がなされた。

四、よつて原告らは被告に対し、右各処分の取消しを求めるため本訴に及んだものである。

(二)  (答弁)

一、原告主張の請求原因第一項および第三項の事実は認める。

二、しかし、本件処分は適法になされたものであつて、原告主張のように違法なものではない。その理由は次のとおりである。

すなわち、地方税法に原告主張のような定めがなされていることは明らかであるところ、被告は、右規定にしたがつて、昭和三九年三月三一日までに原告らおよびその他の住民の固定資産の価格等を決定し、同年四月一日から同月二〇日まで固定資産税課税台帳を枚方市役所総務部課税課事務室内に置いてこれを関係者の縦覧に供した。ところが、右固定資産税課税台帳を縦覧に供した日以後において、原告らの居住する枚方学区、川越学区の住民三百余名の固定資産について、その価格等の登録がなされていないことが発見されたので、被告は、地方税法四一七条一項に則つて、原告伊藤分については同年五月二九日右価格等を固定資産課税台帳に登録するとともに、同日その旨を同原告に通知し、また、原告柴田分については同月三〇日右価格等を登録して同日その旨を同原告に通知し、かつ、右通知の際に、「この決定価格に不服あるときは、通知を受けた日から三〇日以内に文書をもつて枚方市固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる」旨を付言したのである。のみならず、右通知に先立つて、原告柴田に対しては昭和三九年四月二〇日頃、また原告伊藤に対しては同月一〇日頃、いずれも枚方市役所内において同市課税第二課長藪敏雄より、調査調書に基づいて原告両名に右固定資産の価格を伝えたものである。したがつて、本件処分は適法になされたものというべきである。

(三)  (被告の主張に対する原告の主張)

一、被告が、その主張の頃に主張のような通知を原告らに対してなしたことは認める。

二、しかし、被告がその主張の頃に固定資産課税台帳を縦覧に供し、また、原告らの固定資産の価格を同台帳に登録したような事実はない。すなわち、被告がその主張のような縦覧に供し、かつ右の価格を登録したのは固定資産課税台帳ではなく、地方税法三八七条にいわゆる名寄帳にすぎないのである。つまり、固定資産課税台帳とは、特定の区域に存在する一筆の不動産ごとに一葉の用紙を用いて、客観的に決定された価格等をこれに記載したものをまとめて台帳としたものであつて(地方税法三八〇条、三八一条、同施行規則一四条、同規則二四号様式)、課税行政の適正を期するとともに、これを関係者の縦覧に供することによつて近隣の不動産の価格と比較せしめ、もつて納税者の納得を得させることを目的とするものであるのに対し、名寄帳とは、特定区域内に居住する個々の住民について各一葉の用紙を設け、これにその所有するすべての固定資産を一括して列記したものをまとめて台帳としたものであつて、(地方税法施行規則二八号または二九号様式)、課税行政の便宜に供することをその目的とするものであり、したがつて、これを縦覧に供すべきことを許容した法令の存しないのはもちろん、これを公開することは住民の財産状態を公表するのと同様の結果となり、到底許されないところといわなければならないのである。しかるに、被告がその主張のような縦覧に供し、かつ固定資産の登録をなしたのは右のごとき名寄帳にほかならなかつたのであるから、これに基づいてなされた本件処分は違法のものといわなければならない。

(四)  (原告の主張に対する被告の反論)

一、地方税法上、固定資産課税台帳とは別個に、さらにこれに基づいて名寄帳を備えなければならないものとされていること、被告主張の固定資産課税台帳の縦覧および価格の登録が、納税者別に固定資産の価格を記入した「課税名寄帳」によつてなされたことは争わない。

二、しかし、右「課税名寄帳」は、その様式においては名寄帳のそれに則つてはいるけれども、その内容は地方税法三八一条所定の固定資産課税台帳の登録事項をすべて記載したものであつて、固定資産課税台帳と名寄帳との双方の性質を兼ね備えたものであり、かつ、課税台帳と名寄帳との兼併を違法とする法律上の根拠は存在しないのである。

もつとも、自治省令中の記載心得によると、右台帳と名寄帳とは別異の様式によつて作成すべきものとされているけれども、これは、自治省の地方公共団体に対する行政指導の一種とみるべきものであり、しかも地方行政の実情に副わないものであつて合理性に乏しいものといわざるをえない。

のみならず、固定資産課税台帳縦覧の制度は、納税者に自己に対する固定資産税賦課の基礎となる固定資産の価格決定について調査し、かつこれに対する不服申立をなす機会を保障することを目的とするものであり、かつ、被告が原告らに対してとつた前記のごとき措置によつて原告らは自己の固定資産の価格の決定を知ることができ、またこれに対して不服の申立をなす機会を与えられたものであるから、これによつて右課税台帳縦覧の制度の目的は十分に達せられたものというべきであり、それ故に、原告らとしては、固定資産課税台帳が縦覧に供せられなかつたことを理由に本件処分の取消を求めることはできないといわなければならない。

第三、証拠<省略>

理由

一、原告両名が枚方市の住民であること、被告が昭和三九年六月一〇日付で、原告柴田の同年度分固定資産税を金二〇、五〇〇円、都市計画税を金二、九二〇円、原告伊藤の同年度分固定資産税を金八、一三〇円、都市計画税を金一、一六〇円と記載した各納税通知書をそれぞれ原告らに交付して納税告知をなしたこと、原告らが同年七月七日、右処分について被告に異議の申立をなし、同年八月五日これが棄却されたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二、しかして原告らは、被告は、原告らの固定資産の価格を登録した固定資産課税台帳を法定期間中関係者たる原告らの縦覧に供しなかつたものであり、したがつて、右処分は所定の期日までに固定資産の価格を決定することなくしてなされたものであるから違法であると主張するので、以下この点について検討する。

地方税法(昭和二五年法律第二二六号)によると、市町村長が行う固定資産の価格の決定については、これを補助するために市町村に固定資産評価員が設置され、同評価員は所定の手続に従つて土地家屋の評価をなした上、評価調書を作成してこれを市町村長に提出すべきものとされ(法四〇四条、四〇九条)、かつ市町村長は、右評価調書を受理した場合においては、これに基づいて固定資産の価格等を毎年二月末日(ただし、昭和三九年法律第二号により、昭和三九年については三月三一日)までに決定し(法四一〇条)、直ちにこれを固定資産課税台帳に登録して毎年三月一日から同月二〇日(ただし、昭和三九年法律第二号により、昭和三九年については四月一日から同月二〇日)までの間、その台帳を関係者の縦覧に供しなければならないものと定められているところ(法四一五条)、被告が昭和三九年四月一日から同月二〇日までの間の右縦覧期間中「土地課税名寄帳」を関係者の縦覧に供したが、同名寄帳のうち原告ら所有の固定資産に関する記載のある部分の課税価格欄に、昭和三九年度分の右固定資産の価格が登録されていなかつたことは当事者間に争いのないところである。しかして原告は、右のような事態が生ずるにいたつたのは所定の期日までに固定資産の決定がなされなかつたからであり、したがつて本件処分は固定資産の価格決定なくしてなされたものであつて違法な処分であると主張するけれども、証人藪敏雄の証言によると、右「土地課税名寄帳」中原告ら所有の固定資産に関する記載のある部分の課税価格欄に、昭和三九年度の右固定資産の価格の記載漏れが生ずるにいたつたのは、たまたま同年度より固定資産の評価の方式が変更されたところからその評価のためにかなりの日時を要し、決定された固定資産の価格を右「土地課税名寄帳」の当該欄に記入する時間的余裕がなかつたことによるものであつて、固定資産の価格決定がなされなかつたことによるものではなく、右価格の決定そのものは、すでに提出されていた調査調書にもとづいて所定の期日までに完了していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。そうだとすると、本件処分が固定資産の価格決定なくしてなされたものであるということはできないから、そのことを理由に右処分を違法とすることはできないといわなければならない。

三、ところで、固定資産課税台帳を縦覧に供した日以後において、固定資産の価格等の登録がなされていないことが発見された場合には、市町村長は、直ちに、決定された価格等を右台帳に登録し、かつ、遅滞なく、その旨を当該固定資産に対して課する固定資産税の納税義務者に通知しなければならないものとされているところ(法四一七条一項)、成立に争いのない乙第四、第五号証および証人藪敏雄の証言によると、前記「土地課税名寄帳」を一般の縦覧に供した後、原告らの固定資産の昭和三九年度の価格の登録がなされていないことが発見されたので、被告において同年五月一〇日頃、すでに決定されていた同年度の価格を右「土地課税名寄帳」に登録したことが認められるとともに、同月二七日頃、原告らに対してその旨の通知がなされたことは当事者間に争いのないところである。そうだとすると、法律に定められたかような手続を履践した上でなされた本件処分は、なんら瑕疵のない適法な処分であるといわなければならない。もつとも原告は、被告において一般の縦覧に供し、かつ右価格を登録した前示「土地課税名寄帳」は、地方税法の定める固定資産課税台帳ではないから、被告が法の定める手続を履践したものということはできないと主張する。なるほど、地方税法は、市町村は、固定資産課税台帳に基づいて土地名寄帳および家屋名寄帳を備えなければならないものとし(法三八七条)、固定資産課税台帳(法三八〇条以下)のほかに、これとは別個に土地名寄帳および家屋名寄帳の存在を認めており、また、地方税法施行規則一四条、同規則二四号、二八号、二九号様式によると、固定資産課税台帳は、一筆の土地家屋ごとに一葉の用紙を用いてこれにその課税価格等を記載したものを一定数とりまとめて台帳としたもの、土地名寄帳は個々の納税者ごとに一葉の用紙を用いてこれにその所有するすべての土地を列記し、課税価格等を記載した上、その一定数をまとめて台帳としたもので、それぞれその様式を異にすることは明らかであつて、しかも、成立に争いのない乙第四、五号証によると、前記「土地課税名寄帳」が右地方税法施行規則の定める土地名寄帳の様式に従つて作成されたものであることは疑いのないところである。しかしながら、固定資産課税台帳は、固定資産の状況および固定資産税の課税標準である固定資産の価格を明らかにする目的で備えつけられるものであり、また、同台帳を関係者の縦覧に供するのは、納税者に対し、自己の所有する固定資産に対して課せられる固定資産税の課税標準である固定資産の価格を認識するとともに、同台帳に登録された事項について所定の不服申立をなす機会を与えるためであるというべきであるから、本件「土地課税名寄帳」がかような目的を達成するに足りるだけの実質的内容を具えたものと認められる限りは、たとえそれが土地名寄帳の様式に従つて作成されたものとしても、被告のとつた前記手続は地方税法四一七条一項の規定に適合するものであり、したがつて、これを前提としてなされた本件処分はなんら違法なものではないと解するのが相当である。しかして、前記乙第四、第五号証によれば、本件「土地課税名寄帳」に地方税法三八一条一項所定の固定資産課税台帳の登録事項が漏れなく記載されていることは明らかであり、したがつて、これが、市町村に固定資産課税台帳を備えつけもしくはこれを関係者の縦覧に供する前記の目的を達成するに足りるだけの実質的内容を具えたものと認めるに十分であるから、結局、本件処分はこの点でもなんら違法な処分ではないといわなければならない。

四、以上のとおりであるとすると、本件処分が違法な処分であるとしてその取消しを求める原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石崎甚八 藤原弘道 福井厚士)

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